ハヤシ工務店 広報の洞窟担当 加瀬です。
先日、中学時代の先輩が車を購入したとのことでドライブに連れて行ってもらいました。向かったのは福島県、阿武隈洞です。
中に入ると、ひんやりとした空気に包まれ、目の前には幻想的な鍾乳石の数々。天井からつららのように垂れ下がる鍾乳石や、床から塔のように伸びる石筍。まるで大自然がつくり出した彫刻美術館のようで、その迫力にただただ圧倒されました。
ガイド(先輩)によれば、鍾乳石は1センチ成長するのに数百年かかるともいわれています。気の遠くなるような年月をかけて、わずかな水滴が石灰岩を溶かし、また固めていく。その繰り返しによって生まれる造形美は、自然の気長さと、途方もない時間の積み重ねを感じさせてくれました。阿武隈洞の静かな空間に立っていると、人間の一生がいかに短く、自然の営みがいかに大きなスケールで続いているのかを改めて思い知らされます。
木材もまた「時間」の産物
鍾乳洞の景色を眺めているうちに、ふと住宅に使われる木材のことを思い出しました。木もまた、長い年月をかけて育つ存在です。立派な柱や梁になるまでには数十年、時には百年以上という時間を必要とします。
私たちは完成した木材しか目にする機会がありませんが、その裏には木が雨風に耐え、四季を繰り返し、ゆっくりと成長してきた歴史があります。鍾乳洞が少しずつ積み重ねられた時間の結晶であるように、木材もまた「生きてきた証」を持っているのです。
こうして考えると、家づくりに使われる一本一本の木には、自然が刻んできた長い時間が宿っているのだと、しみじみ思わされます。
持続可能な家づくりのために
しかし、その木材も無限ではありません。森林資源を乱伐すれば、次の世代のために使える木がなくなってしまいます。近年では「持続可能な家づくり」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、それは単なるスローガンではなく、現実的に取り組むべき課題なのだと思います。
植林や間伐といった活動は、その一環です。木を切ったら新しく植え、森が循環するように管理していく。そうした取り組みがあるからこそ、次の世代もまた木の家を建てることができます。阿武隈洞で見た鍾乳石のように、一度失われた自然の時間は取り戻せません。だからこそ、今の暮らしを支える木材を大切にし、未来につなげる知恵が必要なのだと思います。
鍾乳洞が教えてくれること
阿武隈洞で感じた「時間の重み」は、そのまま私たちの暮らしに対する姿勢を見直すきっかけになります。便利さを追い求め、早さを求める現代社会の中で、自然は「待つことの価値」を教えてくれるのです。
鍾乳洞の水滴が長い年月をかけて石を形づくるように、木がゆっくりと年輪を重ねていくように、家づくりもまた、時間をかけて丁寧に積み重ねていくものだと思います。速さだけでは得られない深みや安心感が、そこには宿るはずです。
家づくりと自然へのまなざし
木の家に暮らすということは、自然の恵みを日々の生活に取り込むということです。天井を支える梁に触れたとき、その木がどんな森で育ち、どんな風を受けて年を重ねてきたのか、少し想像してみると、家への愛着がより深まる気がします。
阿武隈洞で見た鍾乳石も、一本の柱に使われる木材も、どちらも「自然が刻んできた時間の記録」です。その時間をどう暮らしの中に活かしていくかは、私たち人間に託されたテーマなのかもしれません。
自然と共に時間を積み重ねる暮らし
阿武隈洞で出会った鍾乳石の造形美は、自然の時間がつくり出した芸術でした。そして木材もまた、自然が長い年月をかけて育んだ宝物です。
持続可能な家づくりのためには、その時間の価値を理解し、木を育て、森を守る努力が欠かせません。鍾乳洞の前で感じた静かな感動は、家づくりに携わる者として「自然のリズムに寄り添うこと」の大切さを教えてくれました。
私たちの暮らしは、自然が積み重ねてきた時間の上に成り立っています。そのことを忘れずに、一つひとつを大切に積み重ねていく暮らし方を心がけたいものです。