ハヤシ工務店 広報のカウンター担当 加瀬です。
先日、友人と千葉駅周辺で飲み会をしました。海鮮を楽しんだ後、二次会で立ち寄ったのは雰囲気のあるバー。案内されたのはカウンター席でした。
腰を下ろした瞬間に「あれ?」と感じたのは、カウンターの高さです。椅子は固定で高さを調整できないのに、テーブルは妙に高い。肘を置くとちょっと肩が上がってしまうような位置で、なんとなく落ち着かない感覚でした。
もちろん、設計者やお店の方に直接聞いたわけではないのですが、あえて高めにしているのだろうな、とも思いました。視線を遮るためか、グラスの立ち姿をきれいに見せるためか、それとも「非日常感」を演出するためか。普段の生活で使うテーブルやキッチンとは違う、意図的な高さ設定に少し考えさせられました。
バーにおける「高さ」の演出
改めて思い返すと、バーという空間は高さの使い方に特徴があるように感じます。カウンターを高くすることで、客の視線が自然と正面の棚やボトルに向かい、雰囲気に引き込まれる。背筋が少し伸びる高さは、日常から切り替わる合図のようにも思えます。
また、店員さん側の目線で考えてみると、立って接客するバーテンダーと座るお客さんとの高さの差を埋める効果もあるのかもしれません。カウンターを高めに設ければ、バーテンダーとお客さんの目線が近づき、会話がしやすくなる。お酒をつくる手元を少し隠すことで、仕上がったカクテルを「どうぞ」と差し出す瞬間がより際立つ。そういう仕掛けも考えられるな、と一人で納得してみたり。
キッチンの高さと使いやすさ
暮らしの中で「高さ」といえば、まず思い浮かぶのはキッチンです。
作業台の高さが合わないと、料理をするときに腰や肩に負担がかかってしまいます。どうやら「身長 ÷ 2 + 5cm」が目安と言われているみたいですが、実際には人によって好みもあり、数センチの違いが毎日の快適さを大きく変えるのです。
私自身も、家のキッチンで長時間料理をすると腰が痛くなることがあります。たぶん、私には若干か低いのでしょう。適正より高めなら肩とかが痛くなりそうですね。
バーのカウンターで感じた違和感も、きっとこの「数センチ問題」と同じなのだろうなと感じました。
ダイニングテーブルと椅子の関係
日常でよく使うダイニングテーブルも、高さが重要です。
一般的にテーブルは70cm前後、椅子の座面は40cm前後で、差はおよそ30cm。このバランスが崩れると、食事のしやすさや姿勢に大きな影響が出ます。
バーのカウンターのように高すぎれば肘が不自然に上がってしまい、低すぎればかえってかがみ込む形になって背中に負担がかかる。食事という毎日の行為を支える「ちょうどよさ」は、やはり高さの調整にかかっているのです。
家具屋さんでダイニングセットを選ぶときに「椅子とテーブルはセットで」とよく言われるのは、見た目の統一感だけでなく、このバランスが整っているからだと実感します。
目隠しになるものの高さ
「高さ」と聞くと、家具や作業台を思い浮かべますが、暮らしの中には視線をコントロールするための高さもあります。
たとえば窓辺の目隠し。フェンスや植栽をどれくらいの高さにするかで、プライバシーの守られ方や圧迫感が大きく変わります。低すぎれば外からの視線が気になるし、高すぎれば室内が暗く閉鎖的になってしまう。ちょうど良い高さというのは、人の視線の角度や暮らし方に合わせて調整されるものです。
また、建築的には「腰壁」の高さにも工夫があります。椅子に座ったときに視線が抜ける高さを確保すれば、部屋が広く感じられますし、立ったときに目線を隠す高さにすれば落ち着きが生まれます。住まいの安心感や居心地のよさは、こうした高さの積み重ねでつくられているのだと改めて思います。
高さは「暮らしのリズム」をつくる
バーで体験した「少し高めのカウンター」。最初は違和感がありましたが、よく考えてみれば、その違和感こそが非日常の演出だったのかもしれません。普段の暮らしの高さ感覚をほんの少しずらすことで、特別な空間を感じさせる。
一方で、暮らしの場では逆に「違和感がない高さ」が求められます。毎日の料理や食事、ちょっとした作業や休憩。そのすべてにちょうどよい高さがあり、それが積み重なって暮らしのリズムを形づくっているのです。
高さは単なる寸法ではなく、居心地や体験そのものを変える要素なのだと、バーの夜に改めて気づかされました。